2018年9月15日土曜日

日本人らしさって

今回は少し政治的な話になるので興味のない方は飛ばしてください。

ここ数日、日本国籍の女性で初のグランドスラムを制した大阪なおみ選手の話題で持ち切りですが、同時にネット上では日本人の定義に関する話題も日本語でいくつも見かけました。そんな記事を飛び飛び読んでいたら、2015年のミスユニバース日本代表に選ばれた宮本エリアナさんという方の話題にも触れることになりました。Wikipediaによるとアフリカ系アメリカ人のお父様をお持ちとのことで、その様な方が日本人代表に選ばれたということに当時、違和感を持つ声が上がっていたそうです。外国に住んでいると常々国籍という概念と身近に接しているためか、単にわたしが個人的にこういうことを考えるのに興味があるためかわかりませんが、ネット上の違和感、それに対する賛成意見と反対意見を読んで、自分でもいろいろ考えてしまいました。

個人的な意見ですが、国籍はわたしにとってある意味神聖なもので、売り買いするものではないと思ってきました。例えば国籍変更してスポーツの国際大会に出ている選手を見かけると、違和感を感じてしまいます。スペイン代表にも、スペイン国外生まれの帰化選手がいますし、先月あたりに開催されていたヨーロッパの陸上選手権には、外見と名前だけではどこの国の人かわからない選手が非常に多数参加していて驚きました。帰化ではなく移民の親の元にその国で生まれ育った方もいるでしょうから、そういう方々の人生を想像すると、国籍の定義も存在意義もよくわからなくなってきます。わたしは日本人であることを嫌だと思ったことは一度もないので、そんな自分の国から好きでスペインに移住した身としては、国籍を変える気はさらさらありません。なぜこんな話をするのかというと、スペイン人からよく「スペイン国籍じゃないの?」と驚かれるからです。また、移住が決まった当時、日本人の友達からも何人か「国籍を変えるの?」と聞かれ大笑いした経験もあるからです。でも、仮にわたしがシリアやミャンマーからの難民で、自国の体制に全く嫌気がさしていて、さっぱり自国とは縁を切りたいと思っていたら、どうでしょう。

本題に戻って、国籍の異なる親の元に生まれた人はどちらの国籍に属するのかという疑問ですが、わたしは当事者ではないので単なる一市民の傍観者として、育った国に属するのではないか、と考えていました。また、ある国で育つということは、ある言語で育つということです。”違和感のない国籍”とは育ってきた環境に準ずるのではないか、と。わたしは「ハーフ・ミックス」の知人友人が何名かいますが、例えば同じ日本とスペインのハーフ・ミックスでも、スペインで育った知人と日本で育った知人とでは人として接した際の印象が違います。どちらも金髪に青い目、という”典型的でない”日本人の外見ではありませんが、話し方、話す内容、動作の一部始終がやはりスペイン的、もしくは日本的に感じるのです。一方で、育った国と育った言語(文化)が一致しない人に知り合う機会もありました。両親の国籍が異なるという環境だけに収まらない人たちです。例えば日本人の両親のもとにスペインで生まれ育った知人もいます。彼の日本語会話はまったく日本人的ですが、動作はどことなくスペイン人的です。また、かつて日本人とシンガポール人の両親のもとに、日本で生活している姉妹に接する機会もありましたが、通っていたのはインターナショナルスクールでした。彼女らが成人しどちらの国籍を選んだのかは知りませんが、日本に住んでいながら日本人との接触がメインではなかったためか、当時すでに日本人ではない雰囲気をまとっていたのを思い出しました。彼女の一人が仮にミスユニバース日本代表になっていたとしたら、どうなっていたのでしょう。外見は”日本人の範疇”に収まりますが、日本語が疎かで、お辞儀がたどたどしかったら…。

冒頭の大阪選手に関する記事ですが、有名な脳科学者という方が寄稿した記事に、『アメリカではどんなエスニックな背景を持った人でも「典型的な」アメリカ人になる』という文章がありました。でもこれはあまり的を得ていないと思います。アメリカやオーストラリアなど、他国からの移民で出来上がった新興国と、長い歴史のある国ではやはり自国民と外国人との概念に差があるはずです。スペインはイスラム教とキリスト教の混じる歴史を持つ国ですが、それでもやはりアメリカのような”開かれた”国ではありません。移民数は日本とは比べ物にならないほど多く、南米各国をはじめ、北アフリカ、東ヨーロッパ、中国などからの移民が多く暮らしています。スペインとの二重国籍を持っている人も多く、養子縁組でスペイン国籍を持っている人も多いです。しかし、スペイン人との会話から漏れ伝わる本音は、あくまで彼らは外国人、生粋のスペイン人ではない、ということです。例えばモロッコなど北アフリカ出身の人を表すMoroという言葉。これは日本語のガイジンよりもっと差別的です。中近東出身のイスラム教徒の父親を持つ知人は、子供の頃の話として友達が父親のことをMoroと呼ぶのが嫌いだったと言っていました。イスラム教徒でも、北アフリカと中近東とでは、”民族の純度”が違うそうで、中近東出身のイスラム教徒はMoroではない、と。また、中国人(アジア人)の子供はどこへ行ってもChinoです。スペイン国籍を持ち、スペイン人の両親のもとで育っていても、外見がスペイン人ではないからでしょう。これは南米出身者でもジプシーでも同じです。サッカーのスペイン代表で、David Silvaという選手がいますが、お母さんが日本人とのハーフだそうで、スペイン人から見ると典型的なスペイン人ではないようです。数年前ある試合の実況中継で、Chino Silvaと呼ばれていたのを、今でも鮮明に覚えています。アメリカ同様、表向きはみんな仲良く、というスペインですが、やはり”典型的なスペイン人”という概念はそう簡単には消滅しないのでしょう。

さて、大阪なおみ選手のことはこれまで名前しか知らなかったので、今回を良い機会にインタビューなどを見てみました。たどたどしい日本語で、時に英語での返答となって返ってくるインタビューは、「日本人」とみるには正直なところ違和感がありました。ダルビッシュ有選手や、ケンブリッジ飛鳥選手など、スポーツの世界でも活躍しているハーフ・ミックスはたくさんいますが、これまで見聞きしていた彼らの日本語は日本人ネイティブですから、彼らを日本人代表として応援するのに違和感を持ったことは全くありませんでした。今回違和感を感じたのは、2016年リオオリンピックのゴルフ選手以来です。彼女は発音がネイティブでないということ以外に、発言内容が日本人選手からは到底聞かれるようなものではなかったからです。というのも、勝てなかった試合後のインタビューで、反省や残念である気持ちを述べるのではなく、『私は頑張りました』というようなことを言ったからです。大阪選手は、ところが、表彰式の様子と発言が、わたしにはまるっきり日本人だと映りました。謙虚な姿勢、そして勝者のスピーチの中で I'm sorry と言ってしまうところ。さらに試合後に食べたいものがカツ丼やカツカレーだったというのも、れっきとした「日本人」に感じられました。子供の頃アメリカに移住したそうですが、その割にはアメリカナイズされた笑顔や態度、発言などがあまり見られない大阪選手。育った環境と育った言語、さらに育った教育が一致しない例を目の当たりにして、わたしの思っていた国籍の定義方法は成立しないのだと悟る機会となりました。

2018年9月13日木曜日

Seguridad Social (Ⅲ)

Seguridad Social (Ⅱ)からの続き

薬の処方方法に関しても、日本とスペインでは随分違います。まず、日本では処方薬と市販薬とで製品形態が分かれていますが、こちらではそうではありません。(※最近ではセルフメディケーションという新制度により処方薬と同成分が処方箋無しでも購入できるものもあるようですが) 例えばイブプロフェンを購入したい場合、日本では市販のものの含有量は200㎎までとなっているようですが、例えば病院を受診して、必要があればそれより含有量の多いものを処方してもらえますよね。もしくは、市販自体がない薬の種類も多いですよね。こちらでは、薬局に行けば同じ薬が手に入ります。つまり、病院に行くことなく、必要な薬を購入することができるんです。同じ薬を買うのに処方箋を持っていくとどうなるかというと、値段が安く手に入ります。一度腰痛で受診した際に、痛み止めと筋肉を緩める薬を処方してもらいましたが、他の薬と同様、市販のものと同じ20錠入りの箱をもらいました。結局二、三日服用して症状が改善したので手元には無駄な薬が大量に残りました。日本では医師の判断で症状に応じた日数分が処方されますが、こちらは市販と同じものですから、錠剤の数を綿密に増減することはできません。たとえ数日しか飲まない予定の薬でも、20錠なり30錠なり、販売されている個数を丸々購入するしかないのです。

処方してくれる薬も最低限のものです。また個人の経験談になりますが、例えば日本で皮膚科に通っていた時には、飲み薬と塗り薬を合わせて処方してくれていました。ところがこちらでは、最低限のもの、つまり飲み薬のみが処方され、塗り薬は処方されません(一度だけ症状が非常に悪いときにはステロイド入りの塗り薬を処方されましたが)。一度塗り薬が欲しいと言ってみたところ、薬の代わりに市販の痒みに効く市販製品をお勧めされました。また、例えば葉酸を摂取しようと思う場合、葉酸のみの錠剤は処方してくれますが、カルシウムや鉄分、マルチビタミン入り、といった付加価値付きの錠剤は処方してくれません(医師や患者の体調によっては対応してくれるかと思いますが)。余計なものは自分で(自費で)買ってね、というスタンスです。報酬をあげるために処方薬を無駄に増やす医師もいるというような話も聞きますから、日本の処方箋システムが優れているとは単純に考えられませんが、そういった例外を差し引いても、症状を和らげるために多方面からアプローチして必要な日数分のみ処方してくれる日本の処方薬はやはり効率がいいように思えます。逆に、慢性的な病気で常に同じ薬を必要とする場合、スペインのシステムの方が効率よく思える場合もあります。現に私の慢性蕁麻疹がそうですが、日本では数週間から数か月ごとに、いちいち受診して新しい処方箋をもらわなければなりません。一方スペインでは、長期に渡り(私の場合は凡そ1年分)処方してもらえるので、受診し直すことなく薬局に行けばいいだけなので、負担が軽いです。

これまで相違点をメインに話してきましたが、最後に不思議な点をあげておきたいと思います。まずはジェネリック薬品について。処方箋にはいつも商品名ではなく、成分名が書かれています。薬局でSSカードを提出すると(電子処方箋としてカードに記載されている)薬剤師が薬を売ってくれるのですが、常にジェネリック薬を持ってこられていたのでてっきり保険にはジェネリック薬しか入らないのだと思い込んでいました。ところが、ある薬局で購入した薬が、ジェネリックではないことが判明。それ以来その商品名を言って購入していますが、不思議なことに対価はジェネリックと同じなのです。日本では薬代を抑えるためにジェネリック薬が用いられますが、スペインでは価格に違いがないのでしょうか。また、ある時二種類の薬を買いに行き、一つ目はいつも通りジェネリックではないものを頼みました。すると薬剤師さんは、もう一方の薬もジェネリックじゃないものにするかどうか、提案してきたのです。どちらも同じ価格で買えるなら、だれもがジェネリックではないオリジナルの方を欲しがるようになりそうなものですが・・・。不思議なシステムです。

次に予約について。日本では小さなクリニックなどに行くと凡そ15分毎、もしくは三十分毎に予約を受け付けている印象があります。ところがこちらで空き時間を確認すると、10:43、11:21など、切りの悪い時間が出てくることがあるのです(笑)。マドリードではネット上で予約を取るのですが、カレンダーや時間割形式ではなく、希望日の希望時間帯を選ぶと、それに近い空き時間が三択で現れるので、その中から選びます。もしそれ以外の日時を希望する場合は、再度日時を指定しなおして検索します。前回のエントリーで書いた通り、たいていは待ち時間が長く、1時間~2時間ほど待たされることも普通なのですが、逆に患者が自分以外誰もいなかったこともありました。その時でもやはり、画面上の予約枠は不思議な時間が表示されました。また、これはわたしのかかりつけ医に限ったことかもしれませんが、彼女の診察室前はたいてい患者だらけで、それ故1時間以上待たされることが多いのですが、同じフロアの他の医師の診察室前は、どこもがらんとしていて、常に人が少ないのです。長時間待たされるので観察していて気づいたのですが、患者が集中しているのは彼女の診察室前だけなのです。もし彼女の担当患者数が多いなら、なぜ新規参入者であるわたしをあえて多忙な彼女の担当に加えたのか、そのあたりの仕組みが気になります。

Seguridad Social (Ⅱ)

公的医療制度に関しての話を続けます。Seguridad Social (Ⅰ)からの続き

前回は経済的負担の違いについて紹介しましたが、日本の公的医療保険との一番の違いは何といっても受診の仕組みであると思います。日本でも近年「かかりつけ医」という言葉が浸透してきましたが、それでもまだ餅は餅屋、つまり風邪の症状の時には内科、皮膚に症状があれば皮膚科、視力が落ちたと感じれば眼科、という風に専門医を探して受診するのが一般的かと思います。一方スペインでは「かかりつけ医」にしか予約が取れません。わたしにも、SS受診カードを発行されると同時にかかりつけ医を一人あてがわられましたが、どんな相談をするにもまず彼女のところへ行かなければなりません。これが、慣れるのに一番苦労した仕組みです。日本にいたころからアレルギー症状に悩まされていましたが、公的医療保険を使って自らアレルギー科に行くことはできませんでした。何故かというと、専門医へはかかりつけ医からの予約の依頼を出してもらって初めて受診できるのだからです。日本では地元の医院が大病院へと”紹介状”を出す要領でしょうか。どんな症状でも、まずかかりつけ医に相談しに行きます。わたしの場合は原因不明の慢性蕁麻疹ですから、抗ヒスタミン薬を服用することで日々の症状を和らげます。日本では二度検査をし、原因の一部は見つかりましたが、それとは関係のない状況でも症状が出て、さらにスペインに来てから悪化する一方なので、再検査をしたいと思っていました。ところがかかりつけ医に初めて相談しに行ったところ、抗ヒスタミン薬を処方されたのみでした。日本で服用していた飲み薬はヨーロッパにはなく、塗り薬タイプのみとのことで、違う薬を処方されました。これが全く効かず、再度診察に行くと違う薬を処方されました。これも効かず、薬の変更ヘ行くこと数度。ある日症状が重く全身にアレルギー症状が出たため受診した日にたまたまかかりつけ医が休みで、他の医師が診てくれましたが、その医師が初めて専門医へと回してくれると言ったのです。

念願の専門医への受診ができる流れとなりましたが、ここで新たな衝撃を経験することとなりました。専門医への受診依頼(紹介状)が出されると、管轄の病院から予約の電話がかかってくるのですが、この時受話器の向こう側から発せられた日時は何と12月。その時はまだ8月後半でした。緊急を要する状態ではないとはいえ、4か月も先に予約を入れられるとは思ってもいませんでした。何とか予定を合わせ受診すると、専門医が詳しく話を聞いてくれ、血液検査へと回してくれました。しかしその検査結果を聞きに行く予約が、翌週、ではなく、翌年2月とのこと。2月に結果を聞きに行くと、検査結果に異常は見られず=原因は発見できず、とのことで、成す術がない様子。こちらが腑に落ちない顔をしていたからか、ほかの専門医の意見を聞きましょう、と言われ、次の予約をくれたのが、5月。5月に受診しに行くと、何故か予約に書かれていたのとは別の医師と研修医が診察してくれました。問診をしましたが、やはり前回の医師と同じ反応で、肌が繊細で敏感だから、という発言を繰り返すのみでした。そこでも補足的に血液検査に回してくれましたが、その結果を聞きに行くのが、次の11月です。唖然というのはこういう時に使う言葉ですね。結局専門医を受けられることになってから丸一年が経ちましたが、何か解決策が助言されるような感じはありません。さらに、わたしの症状は夏場に悪化する為、症状の悪い今診てほしい旨を7月にかかりつけ医に伝えに行きましたが、予約は変えられないのか変える手伝いをしたくないのか、やってもらうことはできませんでした。日本在住であれば、直接アレルギー科を受診し、二回の検査をして二人の医師の意見を聞くまで、きっと二、三か月で済んだことでしょう。この間、何度も足を運んだかかりつけ医受診時の待ち時間、彼女の仕事時間とその対価、そして何も改善していない現状、すべてが無駄なことのように思えますが、実際はどうなのでしょう。

かかりつけ医を持つことのいい点は、持病等すべての病状その進捗状況を把握してもらえることだと思いますし、その情報を医療システムで一括して保管しているという点が、いざというときにどの病院でも自分の体調を把握したうえで対応してもらえる為、実用的だと思います。そう思ってこの制度に慣れようと努力してきましたが、やはり疑問が多々わいてきます。きっと医師の人数が減っているというのもあるのかと思いますが、一人の医師に対する患者の数が多すぎることも原因のひとつかと思います。「かかりつけ医」とはいっても、患者は家族でも何でもない単なる他人です。「単なる患者の一人」から「気にかけてあげたい人間」にならない限り、自分の病歴・体調・価値観等を把握したうえで対応してもらえるわけはないでしょう。現に、夏場に症状が悪化して受診した際、普段は一日一錠服用の薬を二錠まで増やして服用するよう言われ、処方箋を変えてもらいましたが、これを通常の服用量に戻すために夏明けに再度受診するよう言われました。そこで受診して更新した処方箋には、これまでと変わらず二錠服用、となっていたのです。つまり一錠から二錠に増やしたという履歴を覚えておらず、機械的に処方箋を更新したものと考えられます。その時に、自分は数多いる患者のうちの一人にすぎないのだと実感したのでした。日本でかかりつけ医のいなかったわたしは「かかりつけ医」もしくは「家族医」という言葉になんだかフレンドリーそうなイメージを持ち、そんな医療現場をポジティブなものだと捉えていましたが、現実はそんなにうまくいっているわけではありませんでした。

日本国外に出て初めて「かかりつけ医」を持ったわたしの率直な感想ですが、「かかりつけ医」とはいわば小学校の担任の先生のようなものです。オールマイティーに授業を担当してくれる、莫大な知識の持ち主です。逆に、専門分野だけを担当しているわけではなく、また担当人数も多いので、30人以上の学級担任が一人ひとりの生徒・児童にそこまで時間をかけて対応できないのと同じように、患者一人一人をしっかり把握したうえで担当してくれているとは思えません。また、どうしても手のかかる患者を優先する心理があるのか、ちょっとやそっとのことでは相手にしてもらえません(という気分になります)。わたしは子供のころから眼圧が高く、定期的に検査を受けるよう言われていました。それで、スペインへ移住して一年が経ったころ、眼科で検査してもらおうと思ったのです。ところが紹介されたのは街の眼鏡屋でした。勿論視野検査などしてもらえるわけもなく、視力と眼圧を図って終わりでした。背中に激痛が走り、夜も眠れぬほど痛くなった時には、レントゲンを撮るでもなく、聴診器を当てて終わり。内臓は正常に動いているから、筋肉の痛みだろう、ということでしたが、この話を日本で薬剤師や整体師に話したところ、非常に驚かれました。人生で初めて風邪をこじらせて、いつもなら数日で回復するところが数週間完治しなかったので不安に思い受診した時も、聴診器で肺の音を聞いてくれるものと思いきやそんなことはせず、咳をしてみて、と言われたのが衝撃的でした。このように、ちょっとやそっとの体調では、基本的な診察(聴診・触診)もせず、問診で終わりだし、ましてや専門医にかかることなどできません。逆に言うと、自分自身の素人判断でむやみに専門医を受診し無駄な検査をしなくてもいいような、ある意味ダムの塞き止めのような役割になっているとはいえます。

続く

Seguridad Social (Ⅰ)

公的医療制度が整っている日本とスペインですが、実際の制度内容に関しては随分勝手が違います。日本では通常、診療・治療・薬代において一律三割負担ですが(年金受給者でも障がい者でも高所得者でも低所得者でも大家族でもなんでもない私自身の場合についてのみ話します)、スペインでは診療無料、治療もほぼ無料、薬代四割負担となっています。治療がほぼ無料というのは、日本と同じく制度に含まれる治療と含まれない治療があるからです。最先端の治療や、基本的な治療から一歩出た治療を受けたければ、費用を負担しなければならないようです。

日本から移住した私が衝撃を受けたのは、公的医療保険の加入が義務ではないということ。今となって思えば、日本の制度的に「加入」と考えるから違和感があるけれど、構造は至ってシンプル。例えば落とし物をして警察の”サービス”を受けるのに代金を支払う必要がないように、体の不調をきいてもらうサービスに代金を支払う必要はないのです。加入するという概念がないのがスペインの公的医療制度(Seguridad Social - 通称SS)です。義務でなければ誰が支払うのかというと、平たく言えば仕事のある人です。仕事がある=収入がある。収入がある人は日本と同じように、給料から天引きされます。収入がない人はというと、払う義務がないのです。払っていないからといって、医療制度を利用できないわけではありません。日本のように、制度を利用したら全額負担する、というわけでもありません。払っていなくても、払っている人と同じように無料で制度を利用することができるのです。随分不公平な制度だと、移住当初は理解に苦しみましたが、人生を生きる上での基本的なサービスである医療を受ける機会が万人に与えられているというのは、結局は良い制度であると思います。何より、老後の心配をしなくてよいという点を考えると、制度を支持したいと思えてきます。実際のところ、わたしもそうでしたが日本では将来への(貯蓄の)不安が常に生活の中に存在していて、就職した暁には貯蓄をはじめ、マイホームだの子供の教育費だのという大出費がある度に、将来への貯蓄とのバランスを考えさせられます。一方スペインでは、将来の大病に備えて大金を貯めておく必要はありません。勿論いざというときに選択肢は広い方がいいので、自費治療を受けることも考えて貯蓄があるに越したことはないと個人的には考えていますが。実際に、日本の実父とスペインの義母がそれぞれ白内障の手術を受けましたが、手ぶらで行って手ぶらで帰ってきた義母に対し、父は三割負担で十万円弱払ったようです(手術前後の診察料や薬代等すべて含む)。これが例えば癌だったら、心臓病だったら、と想像すると、二国間の老後の医療費の負担の差は非常に大きいですね。ちなみに加入が義務でないのは医療保険のみならず、年金保険に関しても同じです。払う人と払わない人がいては制度自体が成り立たないのでは、との疑問をスペイン人にぶつけたものの、収入がなければ払えないだろう、との答え。そこは家族が協力し合って払うものだといったものの、確かに家族全員が失業していたらどうするのだろう。失業率2%そこそこの日本ではあまりありえない生活環境の家族がこちらには多く存在する事実を痛感したのでした。

上記のような理由で一見、北欧諸国の医療制度のようにまぶしく見えるスペインの公的医療制度ですが、ご存知の通り失業率の高いスペインでは税金を払う人口もダントツに少なく、制度は存続の危機に瀕しています。また、しばらく続いたPP(Partido Popular)政権の公務員削減政策により、医療従事者の職環境も悪化の一途をたどっているようです。これにより、職員の削減、そして患者の待ち時間の増大が問題となっています。つい数日前、処方箋の期限延長の為かかりつけ医へ予約を取ったのですが、夏休み明けということもあってか、最初に出てきた空き時間はその日より一週間後。マドリードはスペインの中でも比較的良い方で、たいてい翌日には予約が取れていたし、日によっては当日中の予約も取れるほどだったので今回の件は驚きでした。そして診察日当日、12時10分の予約に合わせ行ったものの、結局診察室を出たのは14時03分でした。待ち時間の長さなどにより、市民の公的医療制度への不満が募ってゆき、ゆくゆくは廃止に持ち込みたい、というのがPPの企みだったようですが、立て続けの不祥事、そして大臣や県長などの辞任劇が続き、政権交代が起こったことで、ここで一旦流れが変わるかもしれません。

続く

2018年6月6日水曜日

YAKINIKU RIKYU

焼肉離宮というレストランで記念日ディナーをしてきました。日本と韓国のインテリアを取り入れたおしゃれな空間にうっとり。そしておいしい和牛の焼肉に、お腹もうっとり。オーナーさん、店員さん、みなさん気さくなのにプロフェッショナル。やはり多少高くても、食べ物の質がいいところ、働いている人の雰囲気がいいところには何度も来たくなります。

最後は締めの石焼ビビンバ!日本のレストランで働いていたことがあるというスペイン人の店員さんが、手際よくビビンバを混ぜてくれました!あっぱれ!本格的!

おいしいお肉が食べたくなった時に。特別な日のお食事に。お薦めです。

http://www.yakinikurikyu.es/

2018年3月7日水曜日

LA CHINATA (2)

数年前にプレゼントでもらって知ったオリーブ専門店、LA CHINATA (ラ・チナータ)。→その時のエントリーはこちら 1932年創業の由緒ある会社で、本社のある Cáceres (カセレス)はオリーブやイベリコ豚で有名です。AOVE (←Aceite de Oliva Virgen Extra = Extra Virgin Olive Oil エクストラバージンオリーブオイル)を使ったコスメやグルメを幅広く取り扱っているお店で、それ以来かなり気に入って、色々試しています。

色々試した中で、最近のヒットはこちら。


オリーブの種入りスポンジ、オリーブの種入りスクラブクリーム、ハチミツ入りリップクリーム


特に、このスクラブクリームが一押し!テクスチャーは、まるでスライムのようにもってりしています。そこにオリーブの実の種が砕かれたものが入っていて、スクラブ効果抜群、これを使って顔を洗った後のすべすべさは、感激もの!(単に普段の自分の肌が汚いからかもしれませんが。。。)

実はこれまでスクラブクリームが好きではなく、ずっと使っていませんでした。というのも、何年も前に試したものは洗いあがりの肌がヒリヒリして、なんとなく肌を痛めているような気がしていたからです。それで、汚れ除去には主に泥パックを使っていたのですが、今度はパック後の乾燥が気になるようになり始め、さらにパックを流すまでの待ち時間がめんどくさくなり(苦笑)、といういきさつで、お店でふと目に入ったこちらのクリームを使ってみることにしました。初めは恐る恐る試したこちらのクリームですが、まったく刺激がなく、それでいて汚れをちゃんと取ってくれ、かなり優秀です。


ピーマンとチリのクリーム、ロブスターのパテ


コスメ以外にもお気に入りがあり、中でも Crema de Pimientos y Chilli (ピーマンとチリのクリーム)が大好物です。クリームというほどドロッとしておらず、ソース(サルサ)といった感じ。辛いものがお好きな方はきっと病みつきになると思います! Embutidos (腸詰)とあわせて、ワインのお供にぴったりです。きっとビールもすすむはず(わたしはビールを飲まないので想像ですが笑)

去年のクリスマス前に、イベリコ豚の生ハムなど、お肉製品の販売も始まりました。こちらもいくつか試してみたのですが、かなり良いレベルでした!

自分の普段使いにも、ちょっとしたプレゼントにも、お薦めなものが手に入るお店です。

2018年2月22日木曜日

カビだらけ

ジメジメした夏にカラッとした冬、の東京とは正反対で、カラッとした夏にジメジメした冬、のマドリードです。

実は毎冬のことですが、今住んでいる家(賃貸)のカビがひどくて困り果てています。特に寝室。11月末ごろから、外に面している壁の隅から窓枠、そして天井まで、気付くとカビが生えているのです。。。数日毎にアルコールで除去。ですが、全部取り切れていないようで、取っては生え、取っては生えの繰り返し。やがて徐々にそれが広がり、新年を過ぎたころには天井へ拡大…。

恥を忍んで寝室の天井公開…酷いありさま(泣)

最悪なのが、木製の家具です。ペンキの塗り方が雑で、きれいにまんべんなく塗られていないため、気がむき出しの部分にここぞとばかりに生えてくる、生えてくる…。気温が下がりだしてから、かなりの頻度でチェックして、毎朝位置をずらしたり、引き出し(もちろん空っぽ)を取り出して窓の近くに置いたりと、なるべく喚起良くしているつもりなのですが、、、気付くとカビが生えていて、ガッカリ。

去年までは除湿効果のあるボックスタイプの置物(写真)を置いていたのですが、これでもカビが生えてくるということは、まだまだ除湿しきれていないということだ。と結論付け、今年は同じものをもう一つ購入しました。

35㎡の広さまで対応と書いてあるけど、寝室はせいぜい12㎡。全く対応できていない

さらに、日本で素敵なものを見つけたので試してみることに。こんなものがあったとは知らなかった!(日本ではカビとは無縁の暮らしをしていた)

引き出し用、水とりぞ〇さん。この小さい引き出しで、一個づつ消費

隙間用を、家具の裏に…(ちなみにポロポロ汚いのは、カビを掃除しまくって出た木のカス)

タンスの裏用は、ヘッドボードにぴったり!

さて、最長で半年持つと書いてあるゾウさん、とりあえず引き出しに一つづついれてみたのですが、、、なんと一週間でこうなりました。

左:七日しか経っていない 右:新しいもの

まさかの、すべてがゼリー状!!!!! 真夏期でも一か月は持つと書いてあるのですが…これではカビも生えるわけだ。。。

ちなみに、下駄箱用のを分解して同じタンスで使ってみたところ(あまりの消費スピードの速さに、引き出し用ぞうさんの在庫が一瞬で尽きてしまったため)、やはりこうなりました。


開封翌日の状態…すでに超吸収

三日後…キャパシティーの半分は超えた状態か

ちなみに、カビが生えるのは寝室のみ。シャワーの熱気などがこもるはずのバスルーム(窓・換気扇なし)や、料理の蒸気などがあるキッチン(こちらも窓なし)には全く生えません。一体何が原因なんでしょう???

寝室はこの狭さ。ここに除湿ボックスを二つ置き(窓側左右)、
除湿パックを各引き出しに入れて一週間でダメになる湿度の高さ!驚

夏になると自然と生えなくなるとは言え、まだまだこのジメジメが数か月続くと思うと、非常に億劫であります・・・・・ とりあえず、自分の肺が丈夫であることを切に願うのみ!笑